動物社会では、警察もお金の力で動いていましたから、ニワトリ王国の王子の捜査はこの上なく念入りに行われることになりました。
「ヒヨコ王子行方不明事件」を指揮するのは、ハムスター捜査官でした。ハムスター捜査官の趣味は、音楽を聴いて踊ることでした。そして後は、ただ食べて寝るだけでした。一体いつ事件を調査しているのだと問われると、ハムスター捜査官は「踊っているとき、寝ているとき」と答えるのでした。
今回の事件を担当したときも、ハムスター捜査官はのんきに横になって寝間で考えていました。
高々ヒヨコ一匹探すことですが、それは逃げたやくざなカラスを探すより難しいと思いました。カラスは再び犯罪をして捕まる可能性がありますが、ヒヨコ王子はそうではありません。それにカラスなら大きな身体で空を飛びますが、ヒヨコは小さすぎて地べたでちょこちょこ動いているだけです。
ハムスター捜査官は、ヒヨコ王子はもうとっくに、イタチかキツネのデザートにでもなったのではないかと思いました。
特に怪しいのがカラス兄弟です。知らないと言い張っていますが、カネのためならば、殺しだろうが誘拐だろうが何だってやりそうだからです。あの大きく鋭い口ばしで、ヒヨコ王子の首根っこを掴んでしまいますと、窒息するか傷ついて死んでしまいそうな気がしました。
それに、ニワトリ王国に要求する金を、もっと増やせと脅していて、王様の方でそれを拒んでいたわけですから、理由も十分あります。
「たぶん、あのカラス兄弟は誘拐に一枚加わっているな。でももう知らないと言い張っているということは……」
長年の勘で、ヒヨコ王子は既に死んでしまっているような気がしました。
寝床で捜査していたハムスター捜査官は、大あくびをして、起き上がりました。そして指を折りながら考えました。
「ヒヨコ王子が生きているとしたら、どういう可能性があるだろうか。一つ目、カラス兄弟から逃げ出した。ありえない。二つ目、誘拐犯を倒した。ありえない。残るは、誰かに助けてもらった。誰も名乗り出ないし、そんなことはありえない……」
ハムスター捜査官は、指十本あって、生き残っている想定に一つも指が折れませんでした。何か忘れているかもしれないとしても、生き残っている可能性は十に一つぐらいしかありません。
もう既に存在しない相手を探すほど、馬鹿らしいことはありません。寝ていたほうがましですが、ニワトリ王国が王子を探すために出してきたお金はばく大です。それに母親はヒヨコ王子には目立つ蝶ネクタイがあるから、探せば必ず見つかると言い張っています。
ハムスター捜査官のコンピューターは寝ているときにも動きましたが、踊りはじめるとさらにそのパワーを発揮しました。ハムスター捜査官は腰に手を当て、くるくる回りながら踊り始めました。
「唯一の手がかりは、二つ。王子のにおいと青い蝶ネクタイ。においはシェパード警官に任せよう。ネクタイには黄金があつらえてあり王子としるされてあるようだ。王子が死んでもそれが市場に出回っているなら、それを回収して、あの大騒ぎしている女王に見せて諦めさせるしかあるまい」
ハムスター捜査官は踊りを中止し、シェパード警官の所へいきました。
シェパード警官は、ハムスター捜査官の忠実な部下で、においの他はすべて彼のコンピューターを当てにしていつもともに行動していました。シェパード警官は、ニワトリ王国の女王が早く探してくれとうるさいと嘆いていました。
たとえ月を掴めて言われて無理だと分かっていても、金を出す依頼人の前では何度もジャンプしなければなりません。ハムスター捜査官は必死で調査している姿を見せねばならないと思いました。
「シェパードくん、王子のにおいはしたかね」
「いいえ、ニワトリ王国中を嗅ぎまわりましたが、ヒヨコ王子のにおいは、ぜんぜんありません。空を飛んだとしか思えません」
「やはり、カラス兄弟が連れ去ったのだ」
「ハムスターさん、どうします? においはたどれませんし、カラス兄弟のアジトへでも行かれますか?」
「そうだな。アジトの周りに、王子のにおいがあるか、ヒヨコの亡がらか何かが落ちているかもしれない」
ハムスター捜査官は、パイプを咥え、遺骨探しだからと虫眼鏡を持ち、シェパード警官の背中に乗りました。そしてニワトリ王国の森から出ていきました。
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