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ハムスター捜査官は、シェパードの背中に乗り、生き物が少なくなった森の中をすすんでいきました。

道が幾つも交差しているところに、メガネザルが営む本屋と、シカたちの仕事場であるスーパーマーケットがありました。ここにきて、ハムスター捜査官は久々に大勢の動物に合いました。

マスクをしているシカの店員がいましたので、ハムスター捜査官はきいてみました。

「やあ、シカくん。商売はどうだい」

「お客が少なくなって、売れ残りが多いですね」

「インフルエンザのせいか?」

「そうですよ。困ったものですよ」

シカの店員はマスクをしたまま嘆いていました。

「でも、この辺はまだインフルエンザは大丈夫なようですよ。向こうの森の、竹やぶ辺りがヤバイらしいですね」

 ハムスターはアイスクリームを二つ買って店を出ました。そしてシェパード警官と、交差点の近くに座って、アイスクリームをなめ始めました。

「シェパードくん、この向こうにある竹やぶを知っているかい」

「ええ。トラやパンダが住んでいるところですね。カやヘビなど恐ろしい生き物が多くて誰も近づかない場所ですよ」

「インフルエンザが流行っているらしい」

「ますます不気味な場所ですね」

 しばらく交差点の様子を監視していると、「かねーかねー」という声が聞えました。

「あいつらだ! ハムスターさん、行きましょう」

 シェパードは、カラス兄弟の声のする方へ走り出しました。ハムスターは振り落とされないように、首輪をしっかりと持ちました。

 首の長いキリンがたくさん働いている工場がありました。そこからは、にがい香りが漂っていました。キリンたちは、こうぼと麦でビールを作っていたのでした。大きい設備でしたが、キリンだから何とか首が届くようです。

 キリン達が、カラス兄弟から金を要求されていたようです。

 シェパードはわおわお吠えました。

「こらっ、こんな所で何しているんだ!」

 カラス兄弟は金を集めた袋を首にぶら下げていました。

「ダミアン、うるさいのが来たぞ」

「ヨハン、今日のところは一まず帰るか」

 カラス兄弟は黒くて大きなつばさを広げ、ばさばさと飛んでいきました。

 おどされていたキリンが、長い首を下げてお礼をしました。

「おかげさまで助かりました。これをどうぞ」

 キリンはビールを二人の前に置きました。ハムスター捜査官は、仕事中は飲んではいけなかったのですが、出来立てのビールはとても美味しそうでした。

 シェパード警官と一緒に、がぶがぶ飲んでしまいました。

酔っ払っても、ヒヨコ王子を探すことだけは覚えています。ハムスター捜査官は腰に手を当て、くるくる回って踊り始めました。

「もし誰かが蝶ネクタイをひろったら、お金に換えようと、宝石やブランド物をあつかう店に行くだろう。手広くネットワークを持っているのが、キツネたち。彼らの中で誰かが知っているかもしれない」

顔を赤くしたハムスター捜査官は、手がかりを探すため、キツネのボスを尋ねることにしました。

途中で、聞きなれない声がしました。

「マスク、マスクはいりませんか~」

どうやらネコがマスクを売っているようです。このマスク売りのネコが、この森の動物にマスクを広めているようでした。

ハムスター捜査官の頭に、インフルエンザをばら撒いている悪い奴がよぎりました。マスクを売りながらインフルエンザをばら撒いているのだろうかと思いましたが、こんな群れから外れた「のら」のネコに、そんなことが出来るとは思えません。それにネコもインフルエンザにかかるのです。

もちろん、ハムスターやイヌもそうで、いつインフルエンザにかかってもおかしくありません。そう考えたハムスターはとりあえず買うことにしました。

「マスクを二枚もらおう」

「まいどあり~。ところで、今日は一体、何の捜査ですか」

「ヒヨコ王子を探しているのだよ。小さな蝶ネクタイをしたヒヨコ。ネコくん、知らんかね」

 ネコは突然、マスクをかけました。そして「ごほっ、ごほっ」と咳き込みました。

「俺は知りませんよ。全然知りません。ヒヨコなんて見たこともありません」

一瞬、ネコは大いに驚き、焦っているようなそぶりを見せました。

ハムスター捜査官は流し目で、ちらりと疑いを向けました。でもマスクで表情が読み取れなくなりました。

ハムスター捜査官はビールで酔ったから、勘違いしたのかもしれないとも思いました。

マスクをはめたシェパードが、のそのそ目的地へ歩きはじめました。

「ハムスターさん、彼は関係ないですよ。ここはニワトリ王国から離れてますし、彼は飛べません」

「ああ、そうだが……」

怪しいネコだと思いましたが、証拠なしでは捕まえられません。今はとにかく、ヒヨコ王子の蝶ネクタイを調べるしか、手がないのです。


宝石など貴重品を高く買い取り、安く売るという看板がありました。
「ここがキツネの質屋か」

看板のちかくにきれいな店があり、中に入りました。

コンコンと手を招いた店員がいました。彼はシェパードを見ると、黙ったまま、店の奥に消えていきました。

しばらくして、彼は小太りのキツネをつれて出てきました。彼が店長のようです。この辺のキツネ達を率いるボスでした。ボスは釣り上がった目で笑いながらいいました。

「また、なにか盗まれた品物でもありますか」

キツネたちの質屋とは、泥棒探しでいつも協力し合っていました。発見したら、依頼主からの謝礼が、この店主にいくようになっているのでした。

「いや、今回の依頼主はニワトリ王国で、そこの王子が行方不明になった。探しものはヒヨコ王子の蝶ネクタイだ」

「蝶ネクタイですと?」

「うむ。ネクタイ青色で、黄金のピンで留められてあり、裏に王子と書いてあるようだ」

「さあ、知りませんねぇ。そんなネクタイですと、買い取るときにすぐに分かるでしょうし、ほかに売りようがありませんから、うちでは断るでしょうねぇ」

「ならば、黄金のピンはどうだ? 純金なら買うだろう」

「はい。もちろんです……」

 キツネのボスは、ある出来事を思い出し、釣りあがった目を、大きく見開きました。

「そういえば、つい最近、この小さな金を売りにきた方がいまして……」

 キツネのボスは陳列から、どんぐりのような純金を出し、ハムスター捜査官に見せました。ハムスター捜査官は虫眼鏡でじっくりと、きらきら光る金を眺めていじりました。驚いたことにそれは二つに割れました。

 ハムスター捜査官は叫びました。

「これだ! これは蝶ネクタイのピンだ! 一体誰から買ったのだ?」

「はあ、すぐそこで、今、マスクを売っているネコさんです」

 ハムスター捜査官は大急ぎでシェパードに乗り、マスクを買った場所に引き返しました。

ネコはいませんでした。
マスク売りのネコは、すでにどこかに消えていたのです。

「逃げやがったな! 追え!」

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童話『ネコとヒヨコ』

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